アメリカの各都市では日常的にビジネスやプライベートでパーティーが行われています。パーティーと言えばケータリングサービスが付き物ですが、その中でもデザートは重要な役目を担います。しかし豪華に見える食事やデザートは、意外にも名が知られていないシェフやパティシエが作っているケースが多いのです。
「ゲッハード ミクラー ファイン ヨーロピアン デザート」は、サンフランシスコで22年間デザートをサービスしている裏方ベーカーです。「ファイン」とは、フード業界で「高級」「高品質」という意味で用います。そのサブタイトルの通りGerhard Michler氏のクリエイションは、フレンチとオーストリアを融合させたライトで質の高いデザートで、長年VIP達に支持されています。
実はこのベーカー、店舗を持ちません。大きなキッチン一つでクッキーからウェディングケーキまでのカスタムオーダー全てを賄っています。その隅に唯一、一般の人が出入りできる小さな窓口があるだけです。ビルの外からも見えないので、“知る人ぞ知る”存在。でもこの“知る人”は、ホテルクオリティーのデザートが低価格で手に入るのですから、ラッキーな人達なのです。
私がこのキッチンを訪れた時は、ちょうど6月の卒業式シーズンで、卒業パーティー用に博士帽形のクッキーや、辞書をデザインしたケーキを焼く忙しそうな従業員を目にしました。6月といえば「ジューンブライド」の時期でもあります。ウェディングケーキの準備で大忙しのキッチンで一番目をひいたのが「プロフィタロール タワー」です。
「プロフィタロール」とは、16世紀から存在する、元々はフランスのデザートで、日本でいう「シュークリーム」に似ています。アメリカのヨーロッパ系レストランでは、シュー皮の中にバニラやチョコレートのアイスクリームを詰め、上からチョコレートソースをかけて仕上げる人気のデザートです。この小さなプロフィタロールをタワーのように積み上げたのが「プロフィタロール タワー」で、習慣では主にウェディングに用いられます。花嫁と花婿がプロフィタロールを食べあうセレモニーもあるそうです。ちなみにゲッハード氏得意のデザートでもあります。彼は中にクリームやチョコレートムースを詰め、キャラメルソースでタワーを仕上げます。そのキラキラ光るキャラメルの糸がタワーを一層ゴージャスに飾ります。
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