昔から家具職人などのアトリエが連立するバスティーユ界隈に2月20日、料理界の第一人者アラン・デュカス氏がショコラトリーをオープンしました。鉄格子の柵の向こうにガラス張りのアトリエが見える外観は、昔ながらの自動車修理工場をリニューアルしていることもあり、ショコラトリーというよりも、“製造所”といったほうがしっくりくる雰囲気。それで、サブネームを“マニュファクチュール・ア・パリ(パリの製造所)”とした、とのことです。
この店のコンセプトが革新的なのは、一般的なショコラトリーがクーベルチュールチョコレートなどの加工済み材料を仕入れているのに対し、チョコレートの製造をカカオ豆の仕入れから取り組んでいるという点。ペルー、サントメ、マダカスカル、ドミニカ共和国、ヴェトナムなど、11の生産国から13種のカカオ豆を仕入れ、焙煎し、精錬して、クーベルチュールチョコレートを作っています。しかもパリ市内の320平米のアトリエで、すべての製造工程を行うという大胆不敵さ。デュカス氏ならではのコンセプトであり、彼ならではの行動力だと思います。
そして、そのアトリエはガラス張りで、ブティックから中の様子を眺めることができるようになっています。製造現場をお客も体感してもらい、チョコレートというモノ作りの喜びを分かち合ってほしい、と語るデュカス氏。
昔ながらの機械や、カカオ豆の麻袋を置くことで、皆が好きなチョコレートはどうやって生まれるのか、という製造工程に興味を持ってもらう目的もあるのです。
シェフ・ショコラティエを務めるのは、ニコラ・ベルジェさん。アラン・デュカスグループに勤めて13年目になります。ベルジェさんは“ジャン=ポール・エヴァン”や“ペルティエ”、“ラデュレ”などで経験を積んだ実力派で、デュカスにその腕を認められ、グループに勤務して8年後には、すべてのパティスリーを統括するシェフにまで昇進しました。
デュカス氏はかつてガストン・ルノートルに師事したこともあって、料理だけでなく製菓の魅力も深く知っており、ショコラトリーの実現は、ある意味、自然の成り行きでした。そしてデュカス氏は、そのショコラトリーのシェフに、信頼するベルジェさんを任命したのです。
青写真を描いてからオープンに至るまで、実に5年の歳月を費やしたそう。コンセプトの構築、カカオ生産者探しはもちろん、設備探し、ブティックのインテリアなど、一つ一つにかける情熱と完璧さには驚かされます。
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