先の7月に初来日を果たし、東京“ブノワ”でビストロ料理を披露したシリル・リニャック。仏テレビ局M6でも料理番組を持つ、とても有名な料理人です。甘いマスクで、フランスのジェイミー・オリヴァーとも例えられる話題の人物。フランス南部ミディピレネー地方アヴェロン県出身の1977年生まれ。3ツ星レストランのシェフ、アラン・パッサールやプルセル兄弟などに師事した他、料理人になる前はパティシエであったこともあって、ピエール・エルメのクリエーションチームメンバーに引き抜かれたこともありました。
2005年に独立すると、ガストロノミーレストランの“ル・キャンジエーム”をオープン。そして2008年には老舗ビストロの“シャルドゥヌ”を買収、2011年には、サンジェルマン・デプレ界隈にビストロ“シャルドゥヌ・デプレ”をオープンするなど、その勢いは留まるところを知りません。そんなリニャックが、“シャルドゥヌ”の向かいに“ラ・パティスリー”を2011年11月にオープンし、多くの注目を集めています。
リニャックは、毎日の生活に彩りと悦びをもたらすブーランジェ・パティスリーを持つことが、昔から夢だったといいます。だからこの道に入るのに、初めは料理人ではなくパティシエを選んだのだそうです。
一方、リニャックが“ラ・パティスリー”のシェフ・パティシエに抜てきしたブノワ・クヴランは、以前“アダムス”で紹介したクリストフ・アダムに就いて、フォションで10年間もの経験を積み重ねています。最後にはセカンドにも登り詰めた優秀なパティシエですが、もともとは料理人になることを目指していたといいます。補完関係にある2人はお互いを尊重し合う師弟なのです。
リニャックが料理においてもパティスリーにおいても、すべてのクリエーションで重視しているのは、伝統だといいます。伝統にこそ本質があり、本質からこそ本物の革新が生まれると考えているのです。ですから店も、シンプルに“ラ・パティスリー”と名付け、伝統菓子をベースとした新しいレシピ作りを実践しています。ここでいう新しいとは、現代の嗜好に合ったレシピになるよう磨きをかけていくこと。まずはクヴランがレシピを試作して、それにリニャックが改良を加え、2人でレシピをすりあわせていく。出来上がってショーケースに並べられるパティスリーは、多かれ少なかれ伝統菓子の姿を纏ってはいるのですが、いったん味わうと、その新しくフレッシュな味わいに驚かされることでしょう!
例えば、“レモンタルト”。伝統的なレモンタルトと同様、サブレのタルトにレモンバタークリームを絞り入れていますが、同時に、レモン果汁だけを煮詰めて作ったジュレも散らしているのがポイント。ジュレのナチュラルな爽やかな酸味が、バタークリームに新鮮なアクセント。さらに上に乗せた小さなメレンゲのカリッと弾けるテクスチュアも秀逸です。
“フランボワーズ”のタルトでは、フランボワーズのくぼみに新鮮なピュレを流し入れるとともに、紫蘇の芽を散らしています。甘味の強いフランボワーズに、スパイシーでアクセント豊かな自然の味わいをプラスして、野性味溢れるように仕上げたそうです。
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