パリの高級食材店“フォション”を卒業したシェフ・パティシエたちは、ピエール・エルメ以降、世界的に大変注目される存在になっています。前回紹介したセバスチャン・ゴダールもそうでしたが、2001年にそのゴダールのあとを引き継いで、10年間という長い年月にわたってシェフ・パティシエを務めたクリストフ・アダムが、今注目されています。
フォション時代、ゴダールが築き上げた“デザイン性のあるパティスリー”という世界を発展させて、目でも楽しめるスイーツを多数発表してきました。例えば、有名になったのは、フォションのエクレア。エクレアの上に乗せるフォンダンを鮮やかなカラーや、マーブル模様、モナリザの写真を焼き付けたチョコレートを乗せたもの、など、さまざまなテクニックを駆使したエクレアで話題をさらったのでした。
そして、そのアダムが2011年、ついに独立。経営スペシャリストの、弟マティアス・アダムと一緒に“Adam’s”というファーストフードスタイルの店をオープンしたのです。気軽に食べられるサンドイッチやデザートを提供する一方で、同時に高品質、デザイン性、優れたアイディアを追求しています。
例えば塩味なら、洋梨とブリーチーズの組み合わせ、ミモザ卵と旬のアスパラガスを乗せたもの、カレー風味のパンにチキンと野菜を挟んだものなど。そしてスイーツは、チーズ用の円形の木のケースを使って、ナチュラルな雰囲気で中身を際立たせたり、ヨーグルトを入れるガラス瓶を使用するなど、遊び心のあるプレゼンテーションが工夫されています。
木のケース入りスイーツで特に人気なのは、滑らかなテクスチャーのチョコレートケーキ“モワルー・ショコラ”です。シンプルな普通のチョコレートケーキに見えますが、ブラジル産カカオ分62%のチョコレートを使い、優れたクオリティに仕上げています。とても濃厚なテクスチャーから、上品なカカオの味わいが香り立ちます。また、春の伝統的なパティスリーである“フレジエ”は、見た目も愛らしいのです。
アダムはブルターニュ出身であることを意識して、ケースの底に塩味のバターで作ったサブレ「サブレ・ブルトン」を入れて、その上に香り高いマダカスカル産バニラのムスリーヌクリームを乗せ、ブルターニュのプルガステル産・ガリゲット種イチゴを綺麗に敷き詰めています。ピスタチオを砕いたサブレを振りかけて、春の草原のようなイメージに。フローラルな香りが特徴的なガリゲット種イチゴが引き立つ、春限定のデザートです。
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