JR赤穂駅から車を走らせること10分、岬からは青い空と凪いだ海、そして海に浮かぶ小さな島々。なんとも、のんびりと穏やかな景色が目に飛び込んできます。ここは日本の夕日百選にも選ばれている瀬戸内海国立公園。そんな贅沢な時間を過ごせる場所に2010年11月にオープンしたのが、「天と海と菓子とSANPOU」です。
こちらのお店は、赤穂でただ一つの延喜式内社で、瀬戸内を守護する海神であり、縁結びの神様としても知られる伊和都比売神社の境内にあります。すぐ近くには大石内蔵助が赤穂を去るときに、何度も振り返ったといわれている「大石名残の松」など、歴史を感じる観光地でもあります。
この神社から見渡す空と海、静かな社の空気に惚れ込んで、当時暮らしていた神戸から、よく訪れていたというオーナーの渡部桂輔さん。「命の洗濯と言いますか、ここにくるとすごくリフレッシュできたんです。私にとっては、特別な場所です」。神戸や宝塚のパティスリーや弓削牧場などで経験を重ねた渡部シェフが、自然豊かな赤穂御崎で店を構えて約2年。お店には地元はもちろん、神戸、大阪、京都、岡山や遠くは海外からのお客さまも訪れています。
「都会のようにモノにあふれているというわけではありませんが、美しい風景、おいしい食べ物や水など魅力的なものがたくさんあるんです。地元の方には馴染みある素材も、見方を変えれば、他の地域の方には知られていない素材だということ。ひとつの素材に関わる人や自然に出会うことが楽しくて」とシェフ。そう話すシェフの心意気は店名の「SANPOU」にも表われています。「売り手よし、買い手よし、世間よし」という3つ調和を説いた近江商人の格言「三方よし」が由来です。シェフが日頃から心がけているのも、調和のあるお菓子だといいます。
太陽と月、昼と夜、表と裏など……、自然界のあらゆるものは「陰」と「陽」のバランスで巡り、木、火、土、金、水、の「五行」が循環することによって、万物が生まれ、自然界が保たれているという「陰陽五行説」。日本でもさまざまな風習や祭りに根付き、相撲や茶道など日本の文化にも五行の考え方が受け継がれているのです。
そんな「陰陽五行説」に基づいて、自然のリズム、バランスに満ちた心地いいおいしさをみつけようと、この場所でお菓子作りに励むシェフ。ルックスは素朴なお菓子が多いのですが、味や食感のバランスがすばらしいもの揃いなのです。ショーケースに並ぶのは、「デーツと煮りんごのルレ」、「おとうふダンジュ」、「播磨野菓子ピーカンナッツのタルト」、「珈琲のジュレといただくブランマンジェ」、「ふたをした木苺とルバーブのケーキ」など常時約15種類。
遠赤外線効果のある直火のガスオーブンを使ってしっとり焼き上げるケーキは、デーツ(ナツメヤシ)の実など珍しい素材を取り入れたものも。
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