例えば「ホットケーキ」。誰もが知っている丸くてこんがりとした焼目がついた形をしています。オーダーが通ってからパティシエの石田寛徳さんが作り始めます。生地をオーブンに入れて焼き上げたら、最後の仕上げはバーテンダーの田端康昭さんが担当します。ウイスキー、マッカランと混ぜ合わせておいたシロップを丁寧に表面に塗り、続いて溶かしたバターを塗ります。生地の熱でマッカランの香りが立ち、それがバターの風味と合わさったリッチな香り。
このホットケーキに合わせるお酒を相談すると、何と意外なことにシャルドネ種のシャンパーニュが添えられました。ホットケーキとシャンパーニュ、普通では考えられないマッチングです。ナイフでカットすると、濃厚なカスタードクリームのような半熟生地が溶け出すホットケーキ。このまったりとした食感とたっぷり表面に含ませたマッカランのシロップの風味。それをすっきりとシャンパーニュが洗い流してくれるのです。濃さと爽やかさが交互に訪れ、こういう味の行き来も面白いものだと感じさせてくれます。
一方「紅茶とミルクチョコレートのケーキ」は、ヴァローナ社製のミルクチョコレートを使ったコクはあるけれど軽やかな仕立てのムース、そしてアールグレイの薫るムースの2層構造。底に紅茶風味のスポンジ生地が隠れています。こちらもお客さんの前で田端さんが、60年ものなど樽香の利いた数種類のカルヴァドスをブレンドしたものをスプレーで振りかけて、最後に6年ものの若いカルヴァドスを数滴垂らします。食べる前から香りに酔ってしまいそう。紅茶とチョコレートの風味のムースは定番ですが、そこに古いものと若いもの、2段階に分けてカルヴァドスを加えることで、より複雑な味の構造となります。