2013年4月、パリ7区アンバリッドの後ろ姿を眺めることのできるシックな住宅街ブルトゥイユ大通りに、日本人パティシエ吉田守秀シェフのパティスリー「モリ・ヨシダ」がオープンしました。通りから店内が丸ごと見える、ガラス張りの店構え。シンプルな作りの店内を、町行く人が眺めていきます。
吉田さんは、静岡の菓子店の3代目。「パークハイアット東京」などを経験したあと、2005年・27歳の時に静岡に戻り、「パティスリー・ナチュレ・ナチュール」をオープンしています。地元静岡で地盤を固めつつも、人生に一度の挑戦をパリでしてみたい。──そんな思いが募って、渡仏に踏み切ったが3年前の2010年でした。
パリでは、現地に店をオープンすることを念頭に置きながら、タイプの異なる店で修業。まずは、レストランのデザートを知りたくて、3ツ星レストランの「ギー・サヴォワ」に。今やクラシックである最高峰のデザートを学ぶことで、一旦原点に戻るのが目的でした。そして「パティスリー・デ・レーヴ」へ。味覚の魔術師といわれるフィリップ・コンティチーニとMOFのアンジェロ・ミュサがどのような対話をしてクリエーションを生み出すかに興味があったといいます。そして「ジャック・ジュナン」では、チョコレートの香りへの探求を極めていました。
「日本人の味覚は、世界中のどの国の人よりも優れていると思います」という吉田さん。日本の店「ナチュレ・ナチュール」にもある“シュークリーム”と“M”以外、まったく異なる品揃え。伝統菓子をベースにしたフランス菓子で挑んでいます。その上で、吉田さんの繊細な感性が発揮されている点が、他の店にはない個性として光っていました。
例えば“レモン・タルト”は、厚手のサブレでしっかりとした食感を作りながら、中にはレモンクリームをたっぷりと詰めています。まるでクリームをたっぷりと乗せていただくタルティーヌのような、グルマンな印象でした。“デュオ・サントノレ”は、ピスタチオクリームとフレッシュなフランボワーズのピュレの相性が、定番の組み合わせながら、素材の味わいを品良く繊細に生かしたバランスのマリアージュ。
さらに、目を引くのは、シューのキャラメルがけの美しさ。吉田さんは、日本人としての繊細な感性を、第一声で「キャラメル」と表現していました。キャラメルに、どのくらい火を通して、どのくらいのギリギリの焦がし加減にすることで、味わいを表現するか。このシューのキャラメルがけでは、その心地よい食感の厚みや、透明感ありながら深みのある味わい、さらに他素材とのバランスが秀逸でした。
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