「洋菓子の街」のイメージが強い神戸。日常的にスイーツを買う習慣のある神戸っ子たちは、常に自分の働く街や暮らす街においしいお店があるかどうかアンテナを張り巡らしていて、神戸の中心地や阪神間だけでなく、西部も例外ではありません。神戸の中心地から地下鉄・車で約30分ほどにある神戸市西区、伊川谷は新興住宅街。中心地から少し離れただけなのに緑も多く、思わず深呼吸したくなるようなのどかな空気です。
そんな伊川谷に2012年4月14日にオープンしたのが「パティスリードパリ ア トレビアント」。神戸市西区の澄んだ空気に映える赤い店構えがおしゃれなパティスリーです。
オーナーシェフは、中尾誠一さん。神戸生まれ、神戸育ちの根っからの神戸っ子。物心ついた頃から多くの洋菓子店に囲まれて育った中尾シェフは、神戸の大手洋菓子メーカー「ゴンチャロフ製菓」を経て、2003年パリに渡仏。パリの「Le Bon Marche La Grand Epicerie de Paris」でショコラ、マカロン、アントルメを担当。そして翌年「フランス アルパジョンコンクール」アントルメ部門で入賞を果たし、帰国後、大阪のパティスリーでの経験後、独立しました。
「私自身が神戸・須磨で暮らしていたのもあると思いますが、自分が店を構えるなら、少しのんびりとした街がいいなあって思ったんです。ちょっと田舎でおいしいお菓子を作っていけたら……と思ったんです」とシェフ。
地域密着型のパティスリーを目指して開業したシェフが、オープンしてすぐ出会ったのが地元のおいしい食材でした。「もともと神戸市西区においしい野菜や果物が多いということは知っていたんですが、実際に店を構えて、暮らし始めてみると、近くに畑もたくさんあって。」
収穫したばかりの新鮮な素材に魅了された中尾シェフは、それらの素材をもとにお菓子を作りました。地元の農家さんである椿本さんが作られる太山寺いちご・太山寺はちみつは、ショートケーキやタルト、コンフィチュールに。再本さんが作るホウレン草や菊菜などの野菜は、週末限定で焼いているキッシュに。
「流通技術が進化して海外の食材も簡単に手に入る時代ですが、生産者さんの顔を見て、声を聞き、購入させていただく果物や野菜は、新鮮さやおいしさに加えて親しみも感じられるので、余すところなく大切に使わせていただこうという気持ちにもなります」とシェフ。
ショーケースを眺めると、柿のタルト、さつまいものロールケーキやパウンドケーキ、カボチャや栗のマカロンなど、地元素材を使ったお菓子が目に入ります。「夏には、地元のいちじくや梨も使っていたんですよ」と店のマダムも語ります。
「太山寺薩摩芋のロールケーキ」と「太山寺薩摩芋のパウンドケーキ」は、店の近所にある太山寺小学校の3年生の児童たちが育てて収穫した「太山寺薩摩芋」を使用したお菓子です。今年5月にJA兵庫六甲伊川野菜青年部の協力のもと、学校横の10アールの畑に植えたサツマイモを10月に収穫。児童たちはこのサツマイモを「パティスリードパリ ア トレビアント」に寄贈したのだそう。
「子どもたちの収穫したサツマイモは、シンプルに焼き芋にしても甘みがあってほくほく!そのサツマイモの味を生かしたお菓子を考えてみました」とシェフ。中尾シェフの考案したサツマイモのロールケーキは、太山寺はちみつを少し入れたシロップで炊き上げた黄金色のサツマイモがトッピング。サツマイモを煮込んだ時のシロップも混ぜ込んで焼き上げた、しっとりとした食感のビスキュイ・ア・ラ・キュイエールに、隠し味にメープルシロップをしのばせたクレーム・シャンティを包み込んだロールケーキです。
完成したロールケーキは、小学生3年生たちの給食後のおやつに、シェフとマダムが学校へ届けたそう。自分たちが育てたサツマイモが使われたロールケーキを頬張る子どもたちの笑顔を見ていると、シェフもマダムも笑顔に!「作物を育てることの大変さや収穫の喜び、そして、素材そのもののおいしさやお菓子になった時の感動などを子どもたちが感じてくれることは、本当にうれしいですね。」
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