アントワープは近年、ファッションやアートの分野で若手デザイナーやアーティストの活躍が注目を集めていますが、ここから発信されるスイーツも負けず劣らず人々の関心を呼んでいます。
ベルギースイーツの中心を担うのがオランダ出身のパティシエ、ロジャー・ヴァンダム氏。2007年には、彼が率いるベルギーのパティスリーチームをフランス・リヨンのクープ・ド・モンドで優勝に導き、その後も数々のアワードを受賞、2010年にはフランスで最も強い影響力を持つレストランガイド“ゴー・ミヨ”でシェフ・オブ・ザ・イヤーを授けられた輝かしい経歴を持つ、ベルギーを代表するパティシエです。
そのヴァンダム氏が構えるランチ・ラウンジが、アントワープ中心に位置する“ヘット・ゲバー”。
大きな門を通り抜け、一歩足を敷地内に踏み入れると街の喧噪から離れ、まるでここだけ別空間のよう。ボタニカル・ガーデンが隣接し、緑に囲まれた涼しげなテラス席では、サンドウィッチやパンケーキ、アフタヌーンティーを楽しむ人たちで常に賑わっています。
このボタニカル・ガーデンの一角をヴァンダム氏も所有し、毎日ここからフレッシュなハーブを摘み、料理に使用するそうです。そしてこのガーデンから、3ヶ月ごとに変えるメニューのインスピレーションを受けるのだと言います。
ボタニカル・ガーデンの庭師の家を改築したという一軒家のレストラン内は、フローリングに白とダークベージュの落ち着いたインテリア。ここでヴァンダム氏の得意とされるデセールが提供されます。
ヴァンダム氏の得意とするデセールは、画期的なチョコレート使いが特長です。ベルギーやオランダで親しまれている伝統菓子、“スペキュラース”と英語の“スペキュタクラー(spectacular=見事な、華やかな)”をもじった看板メニュー、“スペキュタクルース”は、その名の通りスペキュラス色の、あっと言わせるデセールです。
ミルクチョコレート、コーヒー、スペキュラースのコンビネーションを使い、様々なテクスチャーのスイーツを生み出します。上質なチョコレートがゴールドリーフ、ムース、クランブル、レイヤー入りのプチケーキなどに形を変えて飾られ、ディテールにこだわったクリエイティブなプレゼンテーションに思わず目を見張ります。食べ始めると、ふわふわしていたり、さくさくしていたり、一見冷たく見えないものが口の中でひやっとしたり、はたまたある部分は口の中でプチプチとはじけたり。一口一口味わうたびに目を丸くしてしまう、サプライズの連続です。
分子料理法(科学的な考え方を取り入れた新しい料理法)の中心的存在であるヴァンダム氏の、その技術が見事に反映されています。洗練された、立体的なデザートはプレート上に繰り広げられた食のモダンアートと言えるでしょう。
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