向かいの道路から流れてくる心地よい風。こぢんまりとした静かな店内に、ちりーん、ちりーんと響く透き通った風鈴の音。下町の様な、どこか親しみやすい雰囲気を持つ三軒茶屋の駅から7、8分程歩いたところ、三軒茶屋病院の裏に“氷 石ばし”があります。
簾に「氷」の看板をつけ、ひっそりと佇む一軒家。もともとはこちらのご主人が起業し、48年続く氷問屋なのですが、自宅の1階を改装し、夏期限定で奥様がかき氷屋さんを始めたのが23年ほど前。昭和の面影を残すお店には、この猛暑のなか、食べる涼を求めて老若男女がひっきりなしに訪れます。
店内に入ってまず目を引くのは、一目で年代物だとわかる、大きな色鮮やかな青いかき氷機。この機器は食品及び製菓製パン機械を製作している株式会社愛工舎製作所の前身会社である牛窪鉄工所が作ったもので、今でも稼働している物は日本本島ではおそらく“石ばし”だけなのではないかと言われています。上部にモーターを備え、電動、手動の両方に対応しています。「昔は、特に戦後は毎日普通に停電していたの。だからこういう機器はどちらでも動かせるようになっていたのよね。」と石橋さん。
早速そのかき氷機で、かき氷を作ってもらいました。不純物のない、非常に精度の高い純氷から作られるかき氷は、シロップの味をそのままに伝える、透き通ったクリアな味わいです。いちご、メロン、レモンなど、子供の頃にお祭りで食べた懐かしいフレーバーのシロップから、追加可能なミルクはもちろん、抹茶やあずきを使った大人好みのかき氷もあります。お皿に半分ほど氷を欠いたら一度シロップをかけ、さらに上に氷を欠いて再度シロップをかけて完成です。
今回“あんず”と“はちみつミルク”を試してみました。甘酸っぱい“あんず”は冷たいアンズキャンディーを食べているような、懐かしい味。一方オススメの“はちみつミルク”は、はちみつとコンデンスミルクをたっぷりとかけます。面白いのは氷に冷やされたはちみつが、一瞬、水飴のようにとろっとした口当りになるところ。最初はとろっと入り、氷と一緒に口の中ですっと溶けて、後口にはちみつの優しい甘さとコンデンスミルクのミルキー感が広がります。
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