オランダの代表的なお菓子は何か?とオランダ人に尋ねると、真っ先に「リクリッシュ!」という答えが返ってきます。オランダでは小さな頃から誰もが口にする伝統的なキャンディ、リクリッシュ(リコリス)。名前だけ聞いてもピンとこない私に、これこれ!と見せられた小袋には黒いコインの飴の絵。思い出した、これは以前アメリカに住んでいた時、ドイツからの留学生がわざわざ家族から送ってもらっていたキャンディと同じもの。こちらでは “ドロップ”と呼ばれていて、真っ黒な見た目で正直、少し不気味。それでもヨーロッパはもちろん、アメリカやカナダなど北米でも慣れ親しまれている、実はとても有名なお菓子なのです。
元々はアラブ人が砂糖精製の技術を駆使して医療用のトローチを作り、その味付けとして地中海地域でとれる甘草を使ったのがリクリッシュの始まり。この甘草の根はその昔、大事な薬の効用があると信じられていたそうな。そんな昔から食されているリクリッシュは、キャンディタイプの中で最も古いものだといいます。歴史を遡ると、ローマ皇帝のジュリアス・シーザーが服用していたという記録や、ナポレオンが戦争中、痛みを和らげるために食べ過ぎて歯が黒くなってしまったというエピソードもあるほど。近年のリクリッシュは17世紀、オランダが世界で最も勢力があった時代にキャンディとして生産され、意欲に満ちた船乗り達によってヨーロッパ各国、またその他の地域にもたらされたそうです。
そんな歴史からか、今でもオランダでは子供のみならず大人にも好まれ、オフィスには日常的にリクリッシュが置かれているそう。知人の勤めるIT会社ではリクリッシュに会社のロゴを入れて、販促物として客先に配ってしまう程の人気です。また、”ドロップショット”と呼ばれるリクリッシュのリキュールもお酒売り場に並んでいます。スーパーのキャンディ売り場にも、色々なメーカーから出ている沢山のリクリッシュが堂々と棚の一角を占め、どれも似ているようでいながらパッケージやバラエティは実に多様です。
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